超小型探査機「PROCYON」 二重小惑星を目指して航行中

2014年11月に公開された打ち上げ前の超小型新宇宙探査機「PROCYON(プロキオン)」 撮影:秋山文野

2015年4月6日、東京大学は2014年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」と共に打ち上げられた超小型深宇宙探査機『PROCYON(プロキオン)』の運用状況とミッション達成度を発表した。プロキオンは不調が見られたイオンエンジンの復旧運用を続けており、回復すれば今年12月に地球スイングバイで加速して、二重小惑星2000 DP107を目指すという。

プロキオンは、東京大学を中心に東京理科大学、日本大学、立教大学、明星大学とJAXAが共同で開発した重量約65kgの超小型深宇宙探査機。小惑星探査機「はやぶさ2」のおよそ10分の1、昨年11月に彗星を探査した欧州の「ロゼッタ」のおよそ50分の1の重量となる。50kg級の超小型衛星としては初めて、月以遠の深宇宙を単独で探査する機能を実証する。2014年12月に小惑星探査機「はやぶさ2」と共にH-IIAロケットで鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げられ、イオンエンジンによる航行や、小型探査機での精密な軌道決定、窒化ガリウムを使ったアンプによる通信機器の実証などを目指していた。

打ち上げから約4カ月、プロキオンはおよそ55cm立方の本体から展開した太陽電池パネルで発生した電力により、累計で223時間のイオンエンジンの運転に成功した。イオンエンジンは電気推進の一種で、「はやぶさ」「はやぶさ2」と同様にマイクロ波放電で推進剤のキセノンをイオン化して高速で送り出すことで推力を生む。超小型衛星向けに開発したイオンエンジンが深宇宙を航行できる力を実証することがプロキオンのミッションのひとつ。エンジンは350マイクロニュートンの推力と4m/秒の加速を実証したという。推力は、設計時の想定300マイクロニュートンよりも良い結果となった。

イオンエンジンいくつかの不具合にも見舞われている。推進剤の圧力を調整するソフトウェアに不具合が発生した。このときは、イオンエンジンを制御するハードウェアの上位にある、探査機全体を制御するオンボードコンピュータがイオンエンジン関連の機構を「乗っ取る」運用を実施し、プログラムを組み替えて不具合を克服したと、プロキオンプログラムマネージャの船瀬龍准教授は話す。プログラムを後から組み替えるといった運用は、他の探査機で一般的な仕組みではないが、およそ1年という短期間で開発したプロキオンの場合「地上で全ての不具合を想定して検証してから打ち上げることはできないため、柔軟な運用が可能になるように準備してあった」という。その後にイオンエンジンの一部、中和器の電圧にも異常が発生しており、推進剤の流量の調整によって症状が改善したものの、3月中旬からイオンエンジンの運転を休止している。4月末に向けて復旧させるための運用を続けており、順調に復旧すれば今年12月には地球スイングバイを実施し、目的地の小惑星へ向かう航路に入る予定だ。

今回、プロキオンが目指す小惑星の候補が発表された。小惑星 2000 DP107 が第一候補となっており、2016年1月以降(資料では2016年5月)に小惑星の近傍を通過しながら撮影するミッションを実施する予定だ。小惑星2000 DP107は、2000年にアレシボ天文台が発見した。小惑星の中でも珍しい二重小惑星で、最大で直径800mの大型の天体と、300mまでの小型の天体がお互いの周りをまわっている。およその大きさや2.78時間の自転速度、密度など基本的なことはわかっているが、細かい点は判明していない部分も多く、近くでの観測による詳細な情報が期待される。プロキオン計画時には、複数の小惑星の近傍を次々と通過して観測するミッションも検討されたが、小惑星2000 DP107の観測後に地球のそばに戻ってくる軌道ではないため、地球スイングバイを再度実施できないことがわかった。小惑星2000 DP107の観測がプロキオンにとって一度きりの小惑星を近接距離で観測するチャンスとなる。

超小型探査機で深宇宙を航行し、小惑星の近傍での観測を行う計画として、NASAは2018年にSLSロケットで打ち上げるキューブサット6U の超小型探査機「ニア・スカウト」を発表している。船瀬准教授は、同計画について現時点で詳細はわかっていないとしながらも「(10cm角衛星6個分となる)ニア・スカウトはどちらかといえば大型の探査機に子衛星として搭載し、目的地で分離して通信を支援するといった機能の方が向いているのではないか。単独で深宇宙を航行し、目的地に到達する能力では、現在では50kg級のプロキオンが現実的だと思う」とコメントした。超小型衛星として世界で初めて深宇宙を航行し、実用的な通信や精密な軌道決定を可能にしたプロキオンは、新たな宇宙探査の能力の獲得につながると期待されている。

執筆者:秋山文野